珈琲と共に寄り添い、寄り添われて。【Interview】Cota:Cota;COFFEE design + roastery

島のしごとサポートセンターでは、「課題=資源??地域のしごとをもっとオモシロく」をモットーに、島で「しごと」を作ろうとする方々に寄り添い、分野・エリアに関わらず広い視野をもって地域の課題や資源を扱い、一緒に新しい可能性を模索しています。

この記事では地域課題に向き合う島の先人たちにフォーカスをあてます。3組目は洲本市の自家焙煎珈琲豆専門店“Cota:Cota;COFFEE”のコタニさん。その人柄に魅了される人も多く、何時間も店頭でお話を楽しんで帰る方も多いのだとか。立ち上げの背景や思い、そしてこれからについてお話を伺いました。

ブラックを飲めないところから。

―Cota:Cota;COFFEEは2024年にオープンしてまもなく1年になるそうですね。コタニさんはお店を立ち上げるまでも、珈琲にまつわるお仕事に携わってこられたんですか?

焙煎はこの数年のことなんですが、もともと10年以上珈琲にまつわる仕事に携わってきました。

―珈琲との出会いは古いんですね。もともと珈琲がお好きだったのでしょうか?

それが当初はブラックも飲めなくて。珈琲店の面接で出していただいて飲んだのがはじめてでした。「無理しないでね」って言われたけど、飲める振りをして飲んだんです笑。それがすっごくおいしくって。内心めちゃくちゃ感動してたんですけど、飲める設定で挑んだから「おいしいですね」ってスカした感じで言うしかできなくて笑。

―笑、飲めないところからのスタートだったんですね。

そうです、そこからどっぷりはまってしまって。はじめていただいたのが「コロンビアナリニョスプレモ」っていう豆だったんです。僕はもう、英語なのかスパニッシュなのか、ナリニョとか聞いたことも何もわかんないってなって。

それを「ナリニョっていうのはおいしい豆が採れる地域の名前だよ」とか、「スプレモっていうのは豆の大きさの名前なんだよ」とかって教えていただいて。珈琲には全部そういう意味がちゃんとあって「これはナッツ系のものにあうよ」とか。初対面で「何この世界、素敵すぎる」ってなっちゃいました。

―素敵な出会いですね。

ほんとに。珈琲だけじゃなくって、その会社の人柄も素晴らしくって。面接が終わって帰るときに「このコーヒーにあうから」って、ドーナッツをいただいたんです。「え……!優し……!」ってなっちゃいません?

―ドキドキしちゃいます笑。

そうなんです!珈琲を通じてこんな感動的な体験ってできるんだって。こんな素敵な連鎖を、僕もお客さまに届けたいって。そこからもう、ずっと珈琲の虜なんです。衝撃的な出会いだったから、それがなければこんなにも長く珈琲のこと愛してないと思います。

自分の歓びは、どこにある?

―10年以上関わってきて、珈琲と離れようと思うことはなかったんですか?

勤めさせてもらってた会社には、好きなものが全部そろってたんです。けど、お店の責任者を任されるようになって、次第に自分の技量が伴ってない感じがしてきて。負のスパイラルに陥ってしまったことがありました。こんな素敵な場所にいさせてもらって、何もできないなら、どこに行ってもダメなんじゃないかって。そんな中でも珈琲の勉強会は主催させてもらっていました。

―珈琲はコタニさんにとって揺るがず大切なモノだったんですね。

誇り持ってやってましたね。でもお店には、アレンジドリンクを求めてくださる方が多かったから、年を重ねるにつれて「もっと若い子が、キラキラと作った方がいいんじゃないかな?」なんて考えるようになって。今思えばそんなこと全然ないんですけど。珈琲を焙煎するとか、裏側の世界に回るのもありかなって。

―裏方の世界、ですか?

お客さまと接するだけじゃなくて、生産とか生産管理とか、そういった裏方の仕事に就くことを決意して転職しました。ところが、入社してすぐに足の骨を折ってしてしまって。役に立てないって気だけが焦って。明日みんなでやればいいことも、夜中まで残ってひとりでやっちゃったり。くそ真面目に無理してしまって。

―役に立たないと!って無理してしまったんですね。

1か月で治るって言われてた怪我もずっと治らず。……結局、半年で退職。自信喪失状態で、もう何も手につかず。ボーっとして。朝起きて寝るまで、何もしてないみたいなのがしばらく続きました。

―今のコタニさんから、想像できません。

誰とも会いたくなくて。少し外に出られるようになってからも「働かないと」って焦って、職業安定所に行きはじめたり。でも、どんな仕事を見ても自分にできる気がしなくて。今の自分が見れば大丈夫だよ!って感じなんだけど「また迷惑かけるんちゃうかな」とか「自分の努力不足だ」みたいに陥ってしまってて。でも時間はあるから、図書館行って少しでもなにか吸収しようって。毎日通いながら、経営の本とか、ビジネスの本とか見てみるけど、全然心は動かず。

―それまでも図書館には通われていたんですか?

まったく。でも働いてもないし、お金もないから、居場所みたいな。無料で本を何十冊も貸してくれる場所がより所になって。少しずつ、少しずつ、回復してきたときに、ふと「子どもの頃って何が好きだったっけ?」って初心に帰ったんです。アイスクリームの本とか、画家のアルフォンス・ミュシャの画集とか。ワクワクするものを手に取ってみたら一日に20冊とかどさーっと笑。

―自分の心に触れるものを選ぶようにされたんですね。

今思うと、働くことばっかり考えてたんです。焦点を絞りすぎてました。そもそも人間って何にワクワクするんやっけとか、何に歓ぶんだっけ?って、視点を広く持ったら、心がぐんぐん元気になってきて。稼ぐこととか一気にどうでもよくなってきて。最終的にそこで残ったのが、珈琲とデザインだったんです。

“楽しむ”。すると、一気に動き出した。

―どこまでいっても、珈琲からは離れられなかったと。

「自分もう、人生から珈琲を引き算できへんわ!」って。それと同時にデザインの勉強もはじめて。小さな規模でもいいから、珈琲とデザインをつなぎ合わせて生きていけたらいいなと考えられるようになって。そんなことをよく行くお店の方に話してたら「うちの焙煎機使ったらいいよ、教えてあげる」って。練習までさせてもらえることになったんです。

―一気に浮上した感じですね。

元気になると、無職であることが楽しくなってきて。自信なさすぎて無職ってバレたくない!って隠れてたのが「今、無職なんです~」って言えるようになってきて。色んな人にデザインの勉強はじめたこととか、やってみたいことを話しできるようになって。そこですごいポジティブになっていきました。自分の“伸びしろ”を楽しめるようになった瞬間です。

―ようやく、今のコタニさんとつながってきました。色んな方に話せるようになって、どんな変化がありましたか?

焙煎を教えていただいた方に出会えたのもそうですけど、今のお店のオーナーさんに出会えたのも大きいですね。ちょうど焙煎とデザインの勉強が終わって飲み屋さんで「お店出したいんです」みたいな話をしてたら居合わせたオーナーさんから「じゃぁうちでやらない?」って。

―心を開いて、道も開けた感じですね。

ほんとにそう。焙煎もやってみたいって口にしたら教えていただくことになって。お店も探してるって口にしたら見つかって。色んな人にアドバイスやサポートしてもらって、この場所に辿り着くことができました。

寄り添いから生まれる、カスタムブレンド。

―Cota:Cota;COFFEEでは8種の産地の自家焙煎珈琲豆があるそうですね。それらを即興で、カスタムブレンドしてくださると聞きました。

珈琲はかつて薬として処方されていたんだそうです。心を閉ざしてしまった失語症の方などに処方して、オープンマインドになれるきっかけを与えたんだとか。伝説上の話ですけど、珈琲を介して、今まで喋ったこともない人が、身の上話を始めたりして。私もそうでしたけど、思わず話したくなるというか。

―ご自身の経験からも、感じられていたんですね。

なので自分がお店をだすなら「一杯の珈琲を介して、人々の日常と人生に寄り添う」をコンセプトにしようって。カスタムブレンドをご提供するときは、どんなものを飲みたいとか、どういう気分になりたい。とか、お話を伺いながらブレンドしています。

―花束のオーダーのようで素敵です。

そうそう。だから、ここで飲む珈琲はもちろんですけど、珈琲豆もブレンドしてお持ち帰りいただけるようになっています。それこそ花束みたいにその人をイメージして、プレゼントとして買ってくださる方も多いです。

―色んな方とのコラボブレンドも誕生していると伺いました。

ありがたいことですよ。淡路島にしかない柑橘、なるとオレンジ農家の森果樹園さんには、オレンジにあうブレンドを考えさせていただいたり。あと、規格外の作物や、多く取れすぎた素材を加工し、瓶詰や缶詰を製作されているYOKACHORO FOOD BASEさんのオリジナルブレンドを作らせてもらっています。ちょうどお店にカウンターができたそうで、カフェメニューを充実させたいと相談いただきまいした。

―ブレンドも卸先によって、それぞれの表現に変わるのが面白いです。

もちろんひとつひとつの産地だけでもおいしいんですけど、ブレンドならではの多層感って好きで。一口目と最後の余韻が異なるとか。YOKACHORO FOOD BASEさんの豆は四季それぞれに異なるものをつくる予定なんですよ。季節のブレンドは自身のお店でも出したかったので、ちょうどいいタイミングでお声かけいただきました。ずっと憧れてた方でもあったので、連絡いただいたときはうれしすぎて飛び上がっちゃいました!笑。

―お店ができたことでさらに関わりが加速して、新たな循環を生み出していますね。

自分がお店を構えられるようになるなんて、会社員時代は想像もできなかったです。事務も経営も、すべて自分の責任で生きていくって難しいだろうなって。だけど、無職時代に、自分にとって何が大切かとか、何をせねばならぬかとか、たくさん考えた時に、温かい人たちが手を差し伸べてくださって。それが自己肯定感とか自己効力感を、もう1度復活させることにつながったなって。

自信がなくなってる人とか、そもそも自信がない人とか。乗り越えていけるよ!あなたもできるよ!って、軽やかに考えられるようになればいいなって思うんです。自分が生き証人じゃないけど、その力添えになる、ヒントになる存在になっていきたいなと。

―回復までの時間に触れた温かさが、今のお店のベースになっているんですね。

お店に来てくれださるお客様が、自信を取り戻して帰っていかれたりとか。壁にぶち当たってる方が「ここに来たらできそうな気がしてきた」って言って帰っていくとか。一杯ここに置くと、不思議に身の上話が始まったり分かり合えたりする。それがここで大切にしている「人生に寄り添う、日常に寄り添う」なのかなと。

―自分のお店をもち、改めてお客さまに向き合える状況になったからこそ、それを強く感じられるのかもしれませんね。今後はどんなふうに発展させていきたいですか?

1年目からできることを全力で全部投入していて、出し惜しみをしない!それがテーマだったから、やり切ってる笑。もはや今は余生だと思って生きてるんです。

今、関わらせてもらっている森果樹園さんやYOKACHORO FOOD BASEさん、他にもたくさんいただいているオファーも全部またとないことで。こんなお仕事させてもらえるんやっ!て、ひとつひとつに感動してる。だから、これ以上にやりたいことなんて考えられないのが正直なところです。今、目の前にあることを楽しみ切って、生きていければ最高です!

Cota:Cota;COFFEE _design + roastery_
〒656-0051 兵庫県洲本市物部3丁目6−13

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