島のしごとサポートセンターでは、「課題=資源??地域のしごとをもっとオモシロく」をモットーに、島で「しごと」を作ろうとする方々に寄り添い、分野・エリアに関わらず広い視野をもって地域の課題や資源を扱い、一緒に新しい可能性を模索しています。
今回お話を伺ったのは、南あわじ市にある創業130年を超える和菓子店「榮堂」の四代目、坂井敦子さんです。2025年4月に、お店の隣にコワーキングスペース「市村大神前五々丸(ごごまる)」をオープンされました。なぜ、和菓子屋の横にコワーキングなのでしょう?家業の継承、家族のケア、自身のキャリア。葛藤の連続を受け止め、次々と新しい扉を開き続けてきた坂井さん。お話を伺う中で、この場所が生まれたわけが見えてきました。

和菓子屋のとなりに、高校生が集う?
― 「五々丸」は榮堂さんのお隣にあるんですね。古民家をリノベーションされた素敵な空間です。どういった方が利用されているんですか?
坂井:
それがね、私も何も宣伝してないのに、高校生が「ここってなんか使えるんですか?」って聞きに来て。なんか、塾と塾の間に時間があったりすると、おるところがないって言うんですよ。
― え、高校生が自ら聞きに来たんですか?
坂井:
そうそう。最初は2、3人で来て、友だちを少しずつ呼んで……。大学受験を控えた高校3年生だったから、ピークの時は7人ぐらいおったかな(笑)。受験シーズンも終盤になって、今日来てるのはひとりみたいだけど。みんな勉強道具広げて、完全に自習室みたいな感じ。

― コワーキングスペースというか、地域の新しい部室みたいで素敵です!
坂井:
お店を継いだ娘の春菜が、その子らの窓口もしてくれてて。気がついたら春菜が古株のようになってて、手なずけとるんですよ(笑)。「年末やからトイレ掃除しときや」って高校生に言うて、掃除させたりしてね。
―ほんとのお姉ちゃんみたい!
坂井:
月額で場所代いただいてるのにね(笑)。でも高校生も素直に「はい!」って掃除して。この前もここで、春菜とみんなでタコパしたみたい。
― なんて微笑ましい……!めちゃくちゃいいコミュニティが生まれてますね。
坂井:
意図してこうなったわけじゃないけど、そうやって若い子が集まってくれるのは、先祖代々、おじいちゃんもお父さんも喜んでくれてるかなって思います。

2人の子どもを抱え、週末婚。
― 坂井さんは、生まれてからずっと淡路島にお住まいなんですか?
坂井:
いえ、20年ほど前にUターンで帰ってきたんです。それまでは、徳島の病院で管理栄養士として働きながら、主人と娘、息子の4人で暮らしていました。
ー徳島にいらっしゃったんですね。そこから淡路島へ戻ることにされたのは、どのような経緯だったのでしょうか?
坂井:
榮堂の和菓子やパンを作っていた父の調子がよくないと聞いて、様子を見に帰ってきたんです。肺の病気を患っていて、そのまますぐ亡くなってしまって……。
― 突然のお別れだったんですね。
坂井:
私の姉が帰って来る予定だったんですが、島外にお嫁に行ったので。その後、5年ほど母一人で。心配だったし、榮堂もどうするか考えないといけなかったし、島に戻ってくることを決意しました。

― 大きな決断です。
坂井:
さらに淡路島に帰ってくるタイミングで、旦那は実家のある大阪に戻って仕事をすることになり。2人の子どもを抱えて、まさかの週末婚スタイルに。
― 小さなお子さんを抱え、平日お一人での子育てと仕事と、ワンオペの最前線ですね。
坂井:
そうなんです。徳島の仕事を通いで続けていたので、子どもを保育所に迎えに行くのはいっつも一番最後。「すいません、ほんとにすいません」って先生に頭下げて。息子にも「寂しかった」ってよく言われました。
― うわぁ、それは胸が締め付けられる……。
「お菓子屋さんやりたい」。バトンタッチにむけて、再出発。

坂井:
父や祖父が遺してきた店を閉じるわけにはいかないし、母を一人にするわけにもいかない。苦しい葛藤の末、徳島の病院に退職届を提出。小4の娘は「お母さん、お仕事好きだったのに辞めちゃうの?」って泣かれてしまいました。
―娘さん、きっと坂井さんの背中をよくよく見られてたんですね。
坂井:
ただ、退職届けを出した翌月、厚労省の研究チームからお声がかかって。病院を辞めてから、月に一度の東京日帰りがはじまりました。さらに、非常勤講師として、大阪と奈良の大学で教鞭を取ることにもなっていたので……。大阪・奈良へ週2日帰りという荒行がはじまりました。
―え?逆に忙しくなってませんか!?
坂井:
このペースならいけるって思ってたんですよ(笑)。でもやっぱり肝心なお店のこと、全くできなかったので。徐々にですけど、商工会の勉強会に出たり、商品開発したり、プレスリリースの書き方を覚えたり、お店のことも本腰をいれ始めました。
―とてつもない、バイタリティ!
坂井:
そんな中、たまたま東京行きの飛行機で、修士論文を指導してくれた恩師に出会って。厚労省の研究で通ってると話した所「坂井くん、それはドクター取らなきゃね!」みたいな話になって……。
―まさか、まさかね……!(笑)。
坂井:
そのまさかなんですが、気がついたら受験することになって(笑)。お店のことを本格的にスタートした数ヶ月後には博士課程にも通うことになりました。
―そんな無茶な~っ!!(笑)。
坂井:
いいこともあったんですよ。お店を本格的に再始動しはじめてから半年くらいでしょうか。小学6年生になった娘の春菜が「お菓子屋さんやりたい」って言い出したんです。
―それは……!その一言で全回収される思いです……!!
坂井:
最初は軽い気持ちかなと思ってたんですけど。大きくになるにつれて、これはほんとにそうなるかもなって。そうなったら、こんなボロボロの状態では、娘にバトンを渡されへん!と思いました。
― そうなったら、思い切りやるしかないですね!
坂井:
少しずつ、いろんな人が「これ使ってみたら?」って地元の食材を教えてくれたり、繋がってくれたり……。おかげさまで、なんとかお店として形になっていって。

― 激動の中でお店を立て直し、ご縁をつないでいけたのは、坂井さんのお人柄あってのことです。
坂井:
商品化も起動にのり、ようやく娘にバトンタッチできる状態に。春菜もちゃんと学校を卒業して、ここへ帰ってきてくれました。私はもう、口出ししたら怒られちゃう(笑)。
―そうなんですか?
坂井:
「お母さんはカステラ焼いて!」って言われて、「はい、焼かせていただきます」って感じですよ(笑)。なぜかカステラなんですけど。あとはたまに店番。裏方として、経理や困りごとが起きたときに黒子で動くくらいです。
― 頼もしい5代目ですね!
坂井:
最初は「2人でやったほうが楽やん」と思ってたし、娘もそう思ってたかもしれない。でも、あの子が一生懸命インスタやったり、自分のやり方でお店を作っていこうとしてるから。
―いいバトンタッチですね。
坂井:
安心して任せられるようになったからこそ、「隣の空いてる空間どうする?」って、ようやくそっちに目が向くようになったんかも知れませんね。

思いがけないことも、流れに乗って。あれよあれよと進んだ、新しい居場所づくり。
― お隣に目が向いたのは、なにかきっかけがあったんですか?
坂井:
ずっと気になってたんですよ。祖父や父が遺してくれた建物ですけど、もう古くなっていて。もし地震が来て倒れたら、近所の人や通学の学生さんに迷惑をかけるなって。
―通学路でもありますもんね。
坂井:
遊ばしとくなら、誰かに使ってもらえたらなと思ってたんです。そしたら新聞で、淡路島の旅館さんが、施設の一角をコワーキングしてるって記事を見て。「こういう活用法があるんや」って、なんとなく頭に残ってたんです。
―なるほど、なるほど。

坂井:
特にすぐに行動に移すつもりはなかったんですよ。たまたま地域の活性化委員として一緒に活動していた方に「うちの隣の空いてるところ、コワーキングとかにするのになんか補助金とかあるかな?」ってポロッと聞いたんですよ。ほんまに、世間話ついでに。
― ポロッと(笑)。
坂井:
「ちょうどいいの知ってるよ!」って教えてくれて。気がついたら市役所の方にも相談に乗ってもらうことになり……(笑)。
― これもまた、坂井さんの周りがぐっと背中を押したパターンですね!(笑)。
坂井:
あれよあれよという間に申請することになって(笑)。
― 展開もいつも通り早い!(笑)。
坂井:
ものすごい勢いで動き出して。「やる」って言ってないのに、どうしましょうって感じで。……怖いわ~なんてね(笑)。気がついたら申請する流れに乗ってました(笑)。
―その波に乗れちゃうのが、坂井さんらしいです。
坂井:
ありがたいことに、周りのみんなが助けてくれてるし。もう、やってしまおう~ってね。

地域の人たちが、日常的に集えたら。
― 具体的なコワーキングの運用は、どんな風に考えられたんですか?
坂井:
コワーキングをいろいろ調べていくと「ワーケーション」とか、島の外の人に向けたサービスが多いなって思って。でも榮堂は、銀行もスーパーも小中学校も近くて、昔から地域の人が集まる場所やったから。やっぱり「地域の人が日常的に使える場所」にするのが一番の価値じゃないかなって。
― この町の中心で、ずっとお店を構えられてこられたんですもんね。
坂井:
そうなんです。県に出す「報告書」をまとめる時には、島のしごとサポートセンターさんに相談に乗ってもらいました。あとは、「私がずっと常駐するわけにはいかない」って相談したら、スマートロックを使った鍵の運用方法なんかもアドバイスしてもらって。
―実践的なアドバイスがあったんですね。
坂井:
おかげさまで今の形になって。高校生だけじゃなく、地域の方が夜に寄りあいに使ってくださったり、看護師さん・管理栄養士さんが勉強会につかってくださってるんです。
―地元の方や、医療の方々も!
坂井:
そうなんです。ここで看護師さんが「心のケアと練り切り教室」をしたいって言ってくれたりして。他にもお菓子づくりや子ども食堂なんかも開催してくださっています!
―それはとてもうれしいことですね。
坂井:
私自身、管理栄養士とお菓子屋って「相反するもの」やと思ってたんですよ。片や健康指導、片や砂糖の塊やから(笑)。

―坂井さんのやってきたことが、周りの方々の手で結びついていったんですね。
坂井:
ほんまにね。スティーブ・ジョブズの「Connecting the Dots」じゃないですけど、まったく異なる石を投げてきたつもりが、気づけば線で結びついていて。自分でも考えつかないような形になってきているのが、おもしろいなって思っています。
― 最後に、これからの展望や目標はありますか?
坂井:
それがね、この前も経営アドバイザーの方に「目標が低い!」って怒られたばっかりなんですよ(笑)。
― え、怒られたんですか?(笑)。
坂井:
「今の高校生が卒業していなくなったらどうするんですか!今のうちに次の手を!」ってシビアなこと言われて。でも、つい私の「なるようになるさ」精神が出ちゃって(笑)。
―いろんな波を乗り越え、流れを作って、ここまでやってこられたわけですもんね。
坂井:
ほんまにね。計画通りではないけど、振り返ってみたら不思議でおもしろい人生です。
― 坂井さんのどんな難題もおもしろがるスタンスが、新しい点を生み、線となってつながっていくんだと感じました。本当にあたたかい場所で、これからもとっても楽しみです。今日はお話、ありがとうございました!
坂井:
こちらこそ、ありがとうございました。

一見バラバラに見える経験や、ふとした思いつき。それらは自分自身の力だけでなく、周囲の人の手によって結びつき、思いもよらない形になって未来を描いていくことがあります。
坂井さんは、目の前の現実をしなやかに受け止め、周りの人たちの声に耳を傾け、面白がって流れにのっていくことで、自然と次の扉、また次の扉と、新しい居場所や仕事を作ってこられました。
私たち「島のしごとサポートセンター」は、あなたの頭の中にある漠然とした想いを整理したり、言葉にするお手伝いをしています。考えを人に話すだけでも、きっと新しい道が開けるはずです。ぜひ私たち「島のしごとサポートセンター」にも、そのお話を聞かせてください!

市村大神前 五々丸
〒656-0478 兵庫県南あわじ市市福永550−1−3