福祉の枠をはずし、のびのびと。― 【Interview】森の木ファーム

島のしごとサポートセンターでは、「課題=資源??地域のしごとをもっとオモシロく」をモットーに、島で「しごと」を作ろうとする方々に寄り添い、分野・エリアに関わらず広い視野をもって地域の課題や資源を扱い、一緒に新しい可能性を模索しています。

この記事では地域課題に向き合う島の先人たち、ふた組にフォーカスをあてます。ひと組目は 、淡路島で “福祉”の枠を超えて幅広い活動を起こし続ける “森の木ファーム”の代表の松本さん、えりなさんご夫婦にお話を伺いました。

しいたけと福祉?

―森の木ファームさんと聞くと一見、農家さんのようですが実は違うんですよね。

松本さん
そうなんです。僕たちのメインの事業は就労支援です。もともとは、しいたけ栽培で障がい者の方々が自立できる場をつくろうと生まれた会社です。現在は、就労継続支援B型、自立訓練、就労移行支援と放課後デイサービスなど、事業を4つにわけています。

―淡路島の中だと、どこのスーパーにいっても森の木ファームさんのしいたけを手に取ることができます。福祉事業を行われてる会社だというのも知らない方も多いかもしれませんね。

松本さん
そうですね。もともと10年ほど前に森の木ファームとしてしいたけ栽培をはじめたときに「おいしい」から買ってもらうっていうのは絶対条件だと考えてやってきました。

えりなさん
そうそう。福祉の商品やから売れるっていうのだけはかっこ悪いからやめようって。まず「おいしい」があって、ちゃんと提供できる。スーパーさんとかとも取引ができるような状態にして、 実は福祉だった。そっちの方がかっこいいなって。

―まさに、かっこいいです。実際の現場のお話もお伺いできますか?

松本さん
菌床しいたけを栽培して、収穫して仕分け。出荷作業まで。森の木ファームに就労されている利用者さんはいくつかの班にわかれていて、得意そうなポジションに入ってもらうようになっています。

―しいたけ栽培は、就労継続支援B型ということですが、このB型というのはどういう位置づけなんでしょう?

松本さん
就労継続支援A型は、企業などではたらくことが難しいけれど、雇用契約を結んではたらくことができます。最低賃金が支払われて、社会保険もある。一方、就労継続支援B型は雇用契約を結ばずに、障がいや体調にあわせて自分のペースで利用できるというものです。私たちはどちらかというと「はたらきたい」という意欲を尊重したくて。障がいの程度によらずはたらいてもらえるB型で運営しています。

暮らし方、はたらき方を探

―自立訓練、就労移行支援についても詳しく聞きたいです。

松本さん
自立訓練は、自分らしい暮らしをしたい!という方にむけて生活訓練を行っているサービスです。2年間の利用期間があって、生活スキルを高めるプログラムを受けることができます。テーマが曜日によって決まっていて、「食べる」「健康」「余暇」「暮らし」「コミュニケーション」と5つにわかれています。実際の生活でありそうな場面をロールプレイしたり、クレジットカードの仕組みを学んだり。調理実習なんかもあります。

―これって、誰もが学んでみたい内容ですね。

松本さん
いや、ほんとほんと。自分を安定させてはたらく方法とか、気分転換するのにお散歩したり体操したり。まさに生活訓練ですね。就労移行支援は、実践的な“はたらく”を見据えた訓練です。こちらも2年間、週3~5日で座学やグループワークを受けることができます。マナーやルール、社会ではたらくために必要な考え方を知って、実際にインターンに行ったりもします。

誰もが地域に出ていけたらもっと“いい”よね

―プログラムの卒業後は、森の木ファームさんへの就労だけではないんですね。

松本さん
もちろんです。僕たちも森の木ファームだけで完結するなら、利用者さんがストレスなくはたらける環境をつくればいいだけなんですけど。もっと可能性を拡げて、利用者さんそれぞれにあう企業ではたらいていただけたらと考えています。なので自立訓練も就労移行支援も、森の木ファームの外に意識が向いたプログラムです。

えりなさん
みんなが施設の中だけではなくて、地域に出ていきいきと暮らせたらいいなと思ってます。

―そう考えるにはきっかけがあったんですか?

松本さん
淡路島に住むまでは東京で、福祉にまつわる仕事についていました。10年前、縁あって淡路島にやってきました。こっちに来てすぐの頃に感じたのが、東京で支援していた方と淡路島の方との違い。支援は必要だけれども、淡路の人たちってめっちゃしゃんとしてるなぁ!というのが第一印象でした。ただ、みなさんどことなく、社会に出てはたらくことを諦めてる感じ。これはもったいないと思って。

―なるほど、なるほど。

松本さん
僕は「こんだけしゃんとしてるならもっといける」って。だから、森の木ファームだけに留めておくのはもったいないなって。もちろん、利用者さんのことを理解していただく必要はありますけど、企業のみなさんにもつながってもらったら、ここに人手ありますよ!って。

―確信があったんですね。

えりなさん
ちょうどこの前、インターンで利用者さんがお邪魔した企業があって。ただ、企業側と本人の動きがマッチしないかもな~ってなったんですよ。

松本さん
そうそう。そこでうちの支援員が話を聞いて「大丈夫ですよ、いけます!」って。その利用者さんはひとつのことが終わったときに、次に何をしたらいいか分からなくて固まってたんです。そこで、チェックリスト作ってどんな順番にやればいいかとか、次の作業やわからないことがあったときは誰に聞いたらいいかとか、明確にしていただくようにしたんです。企業と利用者さんの間に立って翻訳したというか、そういう道筋を立てたらうまくいったんですよ。

―支援員さんも、企業さんも、利用者さんも。誰も諦めない橋渡しですね。ひとつひとつ、できた!っていうのを積み重ねていけば利用者さんの自信になりそうです

みんな同じ入口から、どうぞお入りください

―せっかくなので「森の木base」のことも教えて下さい。

えりなさん
2022年の12月に「森の木base」をオープンしました。ここでは自立訓練と就労移行支援のプログラムを森の木ファームが開催しています。また、関連団体のNPOが地域の交流地点「みんなのマーケットホール」という場をひらいています。

―自立訓練と就労移行支援は、さきほどお伺いしたプログラムですね。

松本さん
森の木ファームはまだまだ“障がい者が利用する施設”というの印象が強いですよね。でも、障がい者に限らず、生きづらさや孤独感を感じている方々はたくさんいて。そういうみなさんにも「森の木base」を活用してもらえないかなって。

えりなさん
福祉にかかりたいとか、かからなきゃって思ってなければ、なかなか相談に来ないです。知り合いで引きこもってる人を誘ってみたことがあったんですけど、誘ったら「私は前向きな引きこもりやっ」て言われて。

松本さん
その人も自分をサポートしてくれる人に出会えたら、もっと生きやすいかもしれないのになぁって。そこで「森の木base」を活用できたらって。

―気づいてない方が気づくのが一番難しいですよね。

松本さん
そうなんですよ。なので、気づいてもらうというか、その間に立つことをはじめたんです。福祉の専門的な視点を持ちつつ、僕らが町でもっと活動していく。そうすることで「福祉につながる」ハードルをもっと下げていきたい。

えりなさん
福祉と地域の間で、それぞれが交わる緩衝地帯のような場を作るのが「森の木base」の取り組みです。

―楽し気なイベントもたくさんありますよね。

えりなさん
そうそう、ウクレレ演奏会とかカフェとか、ふらっと来ておしゃべりしたり、手芸を一緒に楽しんだりもしています。フラットに「みんな同じ場所に生きてるんやで、障がいがあるなしに関係なく、どなたも同じ入口からどうぞ!」って。変に特別扱いされない感じがいいのかなと思います。

松本さん
去年の冬には、淡路島で月一開催されてる「Awajishima SodateteMarket」さんと一緒に「森の木カウンセリングパーティー」というイベントを開催しました。それもカウンセリングは病んでる人だけではなく、元気な人も「相談することをもっとカジュアルに楽しむ機会をつくろう」と、企画したイベントです。

―いいですね。

えりなさん
すんごい明るい雰囲気が流れたんですよ。みんな長いこと滞在してお話ししてってくれて、心地よかった。私も「うずしおクルーズ船とインバウンドをつなげられないかな?」という相談をもちかけてみたんです。その後、うずしおクルーズ船のインバウンド向けの映像を制作していただけることになって。自分の話をゆっくり聞いてもらって、相談事が実際に形になって。とてもぜいたくな時間でした。

普通につくって、普通に売ろう

―「森の木base」の稼働で、一気に間口が広がった感じですね。今後の展望についても聞いてみたいです。

松本さん
10年経って、ここの森の木baseができて。いま1番ホットなのは「森の木商事」という、ちょっと問屋さんみたいなことできないかなと。

―ネーミングがキュートですね笑。

えりなさん
障がい者施設の商品開発って、自前でなんとかしようとすることが多いんです。自分たちで作って、包装もして、売るのも全部自前でする。そんなに全部をがんばらなくてもいいんじゃないかなって。デザインは誰かに任せたら?とか、売るとこぐらいお願いしたら?って。

松本さん
普通につくって普通に売ろうよっていう話なんです。私たちは淡路島のお土産の内職とかを請け負ってて、クオリティの高い商品にたくさん関わってきました。藍茶のカット加工とか、パッケージ詰めとか、椿オイルの椿の実の収集とか。あとは畑に手伝いに行ったりもしたり。

えりなさん
こういうのに触れてきて、障がい者が関わってる商品でも魅力的な商品が結構あるなぁって。クオリティのあるものを作りきって、ちゃんと売る。森の木商事を入口にして、他の施設の商品開発や販路拡大をお手伝いできたらいいなと。

―それって、しいたけに原点回帰ですね。

松本さん
いやほんと、そこがあるから信頼もある。そういうものづくりしても事業としてやっていけるよって。そのノウハウを提供したり一緒にやるのが「森の木商事」の展望です。

―すごいすごい、自分たちにとどまらず拡げていくっていうのが、森の木ファームさんらしいですね。

松本さん
うれしいです。あともうひとつホットなのがあって笑。

―え?なにですか?

松本さん
働くことに支援を必要としている人なら誰でも利用できる就労支援サービスをやりたいなって。「森のたね」っていう名前で。自己理解のプログラムとかを公開できたらなって。

―またネーミングが光ってますね。

松本さん
はたらくことにちょっと臆病になってる人を対象にできたらと。セッションして自分の大事な価値観だったり、どういう風な癖があったりとか、知れるといいですよね。自分の価値観を大事にしながら、どんな配慮があればはたらきやすいかを言語化していく感じですね。

―新卒入社後、キャリアブレイクしてる方々とか大学生とかも対象になりそうです。なかなか社会にでないと、自分の意識とか考えとか実はこうだった!って、言語化するって難しいですよね。

松本さん
まだまだこれからですけど。福祉に軸足がかなりはまってるいるんで。そこからちょっと脱することをもっともっとやりたいなって。

えりなさん
ぐんぐん芽を出していけたらなって!

―いや、本当に可能性にわくわくします。おもしろいお話ありがとうございました!

松本さん・えりなさん
こちらこそ、ありがとうございました!

自分たちの施設でも受け入れしつつ、さらに他の一般企業ではたらける可能性を育む森の木ファームさん。楽しく明るい空気感で、淡路島の福祉という枠を取り払っていく姿に期待は膨らむばかり。今後の展開も楽しみです。

森の木ファーム
〒656-0511 兵庫県南あわじ市賀集八幡字森ノ木62番

森の木base
〒656-0013 兵庫県洲本市下加茂1丁目3−13

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